在家修行者の場合(一例)

 サキャ派の特徴は、学問(顕教)と実践(密教)を共に重んじることにあり、それによって優れた学者や修行者を輩出し、代々法脈を保ってきました。どちらか一方を蔑ろにして仏道を成就することはできません。しかし、俗事に多忙で力量不足の私たちが、短時間で出家者のように経典や論書を詳細に習得することは困難でしょう。このため、現代のライフスタイルに合わせて短時間で仏法の大海に深く入ることのできる課程が必要となります。

一、顕教基礎

  • 1.入菩薩行論
  • 2.勧誡王頌
    (以上の二論書は大乗仏教行者の広略の行動指針の書)
  • 3.その他の経論とエッセンス
    (ラマは弟子が自習できるように要点を示し、誤解や独り善がりの解釈をしないように指導する)

二、密教基礎課程

  • 1.三つの現われ(三現分) སྣང་གསུམ་།(ラムデの教えであり、サキャ派密教の必修基礎課程)

<<後略>>
 

出家修行者の場合

一、顕教の学び方

 サキャ派では著名十八論書と銘打って、これをもとにして仏教哲学を学ぶスタイルが確立されています。それはインドの十六論書とチベットの二論書からなり、前者を身体そのもの、後者を二つの目のように例えています。インド十六論書は、『入菩薩行論』、中観三書の『中論』『入中論』『四百論』、戒律二書の『別解脱戒経』『根本律経』、弥勒五法、すなわち『現観荘厳論』『荘厳経論』『宝性論』『法法性分別論』『中辺分別論』、阿毘達磨二書『倶舎論』『大乗阿毘達磨集論』、論理学三書『量決着』『量評釈』『集量論』。そしてチベット二論書は『論理の宝蔵』と『三律儀解説』です。また、インド十六論書のうち論理学の三書を除いたものを十三大論書と呼んでいます。では具体的にこれらの論書をどういうカリキュラムで学んでゆくのか、インドのゾンサル学問寺を例に紹介してみましょう。サキャ派の中でも有名なこの学問寺の全十年間のカリキュラムは、次の通りです。まず一学年では『入菩薩行論』『荘厳経論』の二つが主要テキストで、六波羅蜜や中観の初歩的なことを学び、二学年では『入中論』『四百論』、中観の五論書『中論』『迴諍論』『空七十論』『六十頌如理論』『広破論』とこのように中観を徹底して学ぶ。三学年では、サキャ・パンディタ著の『論理の宝蔵』を一年間かけてみっちり学ぶ。四学年では論理学の大著『量評釈』を学び、論理学の理解をさらに深め、五学年では、阿毘達磨の二書『倶舎論』と『大乗阿毘達磨集論』を学ぶ。六学年では、般若学の主要テキスト『現観荘厳論』のみを学ぶ。七学年では律蔵。『根本律経』と『別解脱戒経』の二書を学ぶ。八学年ではサキャ・パンディタ著『三律儀解説』をメインに、その注釈書も合わせて学ぶ。九学年では、中観の理解をさらに深めるべく『入中論自註』とサキャ派の学僧コラムパ・ソナム・センゲ著の『中観概説』、論理学の『集量論』を学ぶ。最後に十学年では、論理学の『量決着』、そして『宝性論』『法法性分別論』『中辺分別論』を学び、弥勒五法の学習を完成させます。よく知られているようにチベット仏教は中観思想を根幹としており、とりわけ『入中論』に代表される中観帰謬派を支持しています。

二、密教の学び方

 密教を学ぶに先立って顕教を修めておくのが、約束事であるのは言うまでもありません。顕教なくして密教を語ることは出来ないのです。密教においてもその根幹を成すのは中観の考え方であり、密教は顕教を土台にして成り立っているからです。